オペラ(ライブビューイング)/NYメトロポリタン歌劇場『トスカ』東劇

2025年9月4日、東劇でMETライブビューイング『トスカ』を鑑賞しました。2024年11月にニューヨークで収録された公演で、指揮はネゼ=セガン、演出はマクヴィカーという豪華布陣。冒頭から緊張感に包まれ、19世紀初頭の専制国家に生きる人々の恋物語と圧政への抵抗が舞台美術と照明を通じて鮮やかに描かれていました。
 
○公演の印象
トスカ役のダーヴィドセンは北欧的な強靭さと透明感ある声でアリアを響かせ、その歌唱力に圧倒されました。一方、METデビューを飾ったデ・トマーゾは若々しく瑞々しい声で観客を魅了しましたが、舞台上ではトスカより小柄に見え、視覚的なバランスに一瞬戸惑いを覚えました。
 
何より心を奪われたのはスカルピアを演じたケルシーです。悪徳権力者としての執念を全身で体現し、一幕の「テ・デウム」では合唱と相まって圧倒的なスケール感を生み、公演全体を牽引していました。
 
三幕すべてにクライマックスがあり、物語が力強く進むため、一瞬も退屈を感じさせません。二幕の名アリア「歌に生き、愛に生き」では、ダーヴィドセンの情熱が会場に満ちましたが、このアリアを聴くたびに耳の奥に刻まれたカラスの伝説的歌唱を思い起こさずにはいられません。
 
○幕間のインタビューほか
幕間には歌手やスタッフへのインタビューが挿入され、児童合唱やパイプオルガン、チャイムといった特色ある楽器の裏側も紹介されました。
さらにプッチーニがかつてMETに招かれた逸話や、次シーズンの演目紹介もあり、会場ではひいきの歌手への期待をさっそく語る声も聞かれました。
 
オペラの本質的なドラマを体現したマクヴィカーによる伝統的な演出と、ライブビューイングならではの映像的な親密さが融合した舞台体験だったと思います。

METライブビューイングアンコール2025

METライブビューイングアンコール2025

映画:川村元気監督『8番出口』TOHOシネマズららぽーと船橋

川村元気監督『8番出口』をTOHOシネマズららぽーと船橋で観賞しました。
 
もとになったのは、昨年大きな話題を呼んだ同名ゲーム。地下鉄の通路を進み、異変を見抜いて戻るか進むかを判断するという単純なルールながら、日常的な空間が孤絶した異界と化す不気味さが注目され、動画サイトでも繰り返し取り上げられていました。
 
映画はそのゲームを下敷きにしつつ、人間関係の希薄さや現代社会の孤独をテーマとして織り込み、さらにゲームにはなかった都会の暗部や意外な主客転倒劇を盛り込んでいます。ゲームとしての独創性と意外性は高く評価でき、映像化によってスケール感も増していましたが、一方で「人間関係の希薄性」という題材は映像作品で繰り返し取り上げられてきたこともあり、新鮮さに欠けた印象も残りました。ゲーム的要素と社会的テーマの融合を試みた意欲作といえるでしょう。(評価:★☆☆☆☆)

映画『8番出口』

映画『教皇選挙』監督:エドワード・ベルガー、2024年

教皇選挙で描かれる権力と使命の葛藤、ローレンス枢機卿の苦悩》
エドワード・ベルガー監督教皇選挙』は、ローマ教皇死去に伴うコンクラーベを舞台に、枢機卿たちの人間模様を描いた作品です。
 
システィーナ礼拝堂に隔絶されて集う彼らは、次期法王をめぐり互いに野心を隠さず、権謀術数を駆使していきます。その中で、選挙を取り仕切るローレンス首席枢機卿レイフ・ファインズ)は、亡き法王の遺志を胸に、果たして誰が最もふさわしいか悩み続けます。
 
3日間にわたり繰り返される投票の中で、様々な思惑や虚飾が次々と暴かれ、最終的には誰も予期しなかった人物が選ばれるという驚きの結末へ。観賞を通じ、教会本来の使命よりも権力に翻弄される枢機卿たちの姿に対し、理想と現実の隔たりに苦悩するローレンス枢機卿の姿が強く印象に残りました。

映画『教皇選挙』

バレエ(ライブビューイング)/パリ・オペラ座『眠れる森の美女』TOHOシネマズ流山おおたかの森

《古典の美と技術の融合!華やかなバレエライブビューイング》

8月26日、TOHOシネマズ流山おおたかの森でライブビューイングにより、パリ・オペラ座バレエ団の『眠れる森の美女』(4月10日収録)を鑑賞した。

 

ヌレエフ版は第3幕のディヴェルティスマンを最小限にし、2時間46分という長さながら冗長さを感じさせない構成で、観る者を飽きさせなかった。豪華絢爛な舞台美術と衣装は古典の美を体現し、バレエ団の水準の高さを実感させた。主役デジレ王子を演じたギヨーム・ディオップは、ジュテやアントルシャなど高い技術とともに、青年の憂いや喜びを豊かに表現し圧巻であった。一方、オーロラ姫のブルーエン・バティストーニは難度の高いローズ・アダージョに苦労する場面もあったが、愛らしさと気品を兼ね備え観客を魅了した。第2幕ではリラの精に導かれる王子のソロが印象的で、音楽も独自のアレンジのように感じられた。

 

物語はおとぎ話でありながら、人間と超越的存在の対比が興味深く、ダンサーたちの表現に深い感銘を受けた。映像は実演に劣らず臨場感に富み、観客の拍手を誘うほどであった。

『眠れる森の美女』パンフレット

パリ・オペラ座 IN シネマ 2025『眠れる森の美女』

 

オペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師』メトロポリタン歌劇場、2015年

今シーズンのMETライブビューイングは、今作が最後となります。
今シーズンのラインナップは、やはりMETというか、新しい作品を手掛けたり新演出を行うなど、チャレンジングな姿勢が目立ちました。
しかし、その分興味をそそられはしても出かけていくところまではいかず、今作が今シーズン初めての鑑賞となりました。

東劇の客席も6〜8割くらい埋まっていて、やはり馴染みのある演目と言いますか、安心してみることのできる演目なのでしょう。
プロダクションはデイヴィッド・マクヴィカーによる新演出ではありましたが。


■プログラム

さて、『カヴァレリア・ルスティカーナ』ですが、これはこの作品のヴェリズモらしい雰囲気と言いますか、ドロドロした男女の関係を前面に出した演出でした。演出はとてもこの作品に沿ったドラマティックなものとなっていました。不自然さはなく回り舞台を活用した効果的なものとなっていました。サントゥッツァ役のヴェストブルックはとても力量のある歌手で、演技も迫真のものでした。トゥリッドゥ役のアルヴァレス、アルフィオ役のギャグニッザも非常に良かったと思います。母役の歌手もとても良かったです。

続いて『道化師』ですが、これは初見でした。独唱部分は非常に良いです。しかし全体としての作品の完成度ということでは、『カヴァレリア』には及ばないと思いました。

歌舞伎『第二十三回歌舞伎観賞教室』京都四條南座


国立劇場ではずいぶん以前に参加したことのある「歌舞伎鑑賞教室」ですが、京都でも行われているんですね。
京都南座というと芸妓さん、舞妓さんがずらりと桟敷席に並ぶ、華やかな「顔見世」のイメージがあるのですが、それ以外にも年間2〜3回程度の歌舞伎公演が行われているようです。
この鑑賞教室はチケットも大変お安く(3,000円)、この機会だからこそ南座を訪れたいという人も多かったのではないでしょうか。

南座の印象
まず、劇場の印象ですが、総座席数1,078席ということですから、東銀座の歌舞伎座の1,808席と比べ半分くらいのこじんまりとした劇場です。しかし、設えとしては格子状の天井が見事で、館内にはお食事処、休憩コーナーや売店などひととおりそろっており、それぞれが歌舞伎座とは違う雰囲気を持っています。内部は、なんというのか少し迷路めいたところがあります。階段の装飾などは銀座の教文館に似たところがあるなと思いました。座席やじゅうたんなどはさすがに老朽化が目につきました。これは新装なった歌舞伎座と比べてはいけないかも知れませんけれども。

■歌舞伎鑑賞教室について
さて、幕が開き歌舞伎鑑賞教室が始まります。
会場は京都らしく?着物を着た女性も多く、一方では中高生などの姿も見られ、ほぼ満席だったのではないかと思います。


■プログラム

  • 解説 南座と歌舞伎
  • 色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)かさね

まず「解説 南座と歌舞伎」ですが、落語家の桂九雀さんによる面白く分かりやすい説明で、太鼓の音による情景の演出やセリの仕掛けなどについて説明がありました。最初にこの催しに参加している学校生徒の出席をとっていたのはご愛嬌でした。また、一般の人にも歌舞伎を楽しんでほしいという趣向だと思いますが、会場のお客さんで希望する女性が歌舞伎の衣装を身に付けるコーナーがあり、司会者の九雀さんに選ばれたウクライナの留学生の立候補女性が着替えののち黒い着物を着て登場し、喝采を浴びていました。

九雀さんの説明の後は、休憩をはさんで、舞踊狂言の『色彩間苅豆(かさね)』が上演されました。「間」という字にを「ちょっと」とふりがなを振るのが面白いですね。それとも「ちょっと」に「間」という漢字をあてたのか、それはわかりませんが・・・。
夏はもう少し先ですが、この演目は背筋の寒くなるような怪談話です。悪事が発覚し逃亡中の与右衛門は中村松江、そして恋人の腰元かさねは上方歌舞伎上村吉弥が務めました。吉弥さんはこの歌舞伎鑑賞教室の第1回から連続で出演しており、ご自身もホームページ上で「南座の歌舞伎鑑賞教室は私のすべて。この公演がなかったら、今の自分はなかったと思います。私にとっても勉強の場です」と語っておられました。私にとっても「美吉屋(みよしや)!」(「よっしゃ」と聴こえる)という掛け声も初めて聴くもので、清元の印象的な舞踊狂言でした。

全部で二時間程度(11:00〜12:45)の短い内容でしたが、初めて訪れた南座の独特の雰囲気をたっぷりと味わうことができました。

映画『鏡』監督:アンドレイ・タルコフスキー、1975年

タルコフスキー自身の生い立ちをとりわけ母とのかかわりを中心に描いた作品。

鏡 DVD HDマスター

鏡 DVD HDマスター

■感想(個人的評価:★★−−−)
理解を超えた映画でした・・・これはあまりにも難解ですし、お勧めできるものではありません。
惑星ソラリス』(1972)の哲学性について心酔した自分もこの作品は分かりません。しかしまぎれもなくタルコフスキー作品なのです。戦争、独裁、文学、幼児しか持ちえない感覚、そういったものがないまぜになり過去と現在とを行き来しながら描いています。